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郡上の文化を発信 八幡町の「喫茶 門」60周年

郡上おどりの町・郡上市八幡町。江戸中期、圧政に苦しむ農民たちが一揆を起こした山あいの城下町には、独特の文化が息づいてきた。文化の担い手たちは、郡上文化人と呼ばれた。
昭和から平成にかけて、彼らによって刊行されていたのが『郷土文化誌 郡上』。八幡だけでなく、郡上全体の文化を発信し、記録した。地域外の岐阜市などの文化人たちも文章を寄せ、タウン誌、郷土誌の域を超えた質量を誇った。
その担い手だったのが、劇作家高田英太郎さん、詩人水野隆さん、そして編集長を務めた呉服店主・谷澤幸男さんらだった。
彼らが集い、談笑し、議論を戦わせたのが、ここ「喫茶 門」。徹夜おどりが行われる八幡の中心地に店を構える。昨夜どこで誰が誰と会い、何をしていたか、翌朝ここに来ればすぐに分かり、街中に広まる。今年開店60年を迎える「門」は郡上文化の中心であり、情報の発信地だった。
開店以来、店を切り盛りしてきたのは、古池五十鈴さん(83)。『郷土文化誌 郡上』の編集にも携わった五十鈴さんは、いわばサロンの女主人であり、紅一点のヒロインだった。
※古池五十鈴さん
「なんかつながっていくんですね、いろいろな縁で。この店が編集会議の会場みたいなものだった。それで、あの店は文化人の店と呼ばれるようになった」
「門」は、落語家の柳家小三治さん、入船亭扇橋さん、放送作家永六輔さんらが中心となり、32年間催された郡上八幡大寄席の事務局も担った。その後、八幡に移り住んだ俳優・近藤正臣さんが案内役を務める「郡上八幡上方落語の会」にも関わってきた。
新聞記者たちも「門」を訪れ、五十鈴さんや客たちと語らい、日々の情報を集めた。かつて支局長を経験した岐阜新聞の国本真志登統合編集局長もその一人。
※国本編集局長
「先輩たちも喫茶・門で記事を書いていたと聞きました。いろんな人たちをつなぐサロンであり、ハブであり、そういった場所でした」
数年で入れ替わる支局の記者たちだが、五十鈴さんは、歴代の記者を招いた同窓会を何度も催している。
歳月は流れ、郡上文化の担い手たちも、最年少の五十鈴さん以外は故人となり、『郷土文化誌 郡上』も第10冊で終刊となった。
※古池五十鈴さん
「谷澤さん、翌年に高田さん、しばらくして水野さんと、3人とも72歳で亡くなられた。3人には、私を絶対に迎えにきとくれんな。私はまだ10年くらいは頑張りたいんでって」
そして近年、新しい文化の担い手たちが声を挙げてきた。『郷土文化誌 郡上Ⅱ』として、五十鈴さんを編集代表に復刊されたのが2016年。順調に号を重ね、昨年末には第6冊が出された。
三味線の弾き手でもある五十鈴さん。春まつりの夜は、つむぎの着物に編み笠姿で、三味線の流しを続けている。お囃子クラブに所属し、郡上おどりでも演奏。途絶えてしまった長唄「花のみよし野」の復活にも取り組んできた。
今年は郡上八幡城再建から90年。再建時につくられたご当地ソング「八幡小唄」を収めたCDも制作した。かつて在籍した「劇団ともしび」の65周年記念公演も計画されるなど、五十鈴さんにとって、メモリアルイヤーとなりそうだ。
※古池五十鈴さん
「頑張って自分がかかわりあってきたことの集大成みたいにやって、とうとうきょうを迎えられたという感じです」
4月21日には「門」60周年を祝う会が催され、五十鈴さんを慕う多くの人々が駆け付けた。文化を育むのは人のつながり。「喫茶 門」には今も郡上の文化人が集います。